トランスジェニックマウスを利用した食品の抗アレルギー機能性評価技術
/後藤 真生


はじめに

 先進国において花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の患者数は年々増加しており、医療費の増大やQOLの低下など大きな社会問題となっている。わが国においても国民の約1/3が何らかのアレルギー症状を訴えている(図1)。近年の急激な患者数増加の原因の詳細は不明であるが、食生活などライフスタイルの変化や社会的ストレス、環境の変化などが遺伝的素因に加わりアレルギーを悪化させているという説が有力になりつつある。
 現在、これらのアレルギー疾患の治療にはアレルゲンの除去以外に、ヒスタミンなどケミカルメディエータの機能阻害剤、ステロイドなどの抗炎症剤、免疫抑制剤等の対症療法が主流となっている。その一方で、近年の免疫学の進歩は免疫系におけるインバランスがアレルギーなどの免疫失調疾患を引き起こすことを明らかにしてきた。そして、それらのインバランスを是正することで、アレルギーの改善、さらには予防をはかるという治療戦略が現実性を帯びつつある。
 その潮流の中で、抗アレルギー機能を有する食品の積極的な摂取でアレルギーの予防や症状の軽減をはかる試みが行われつつある。食品は薬品と異なり、生活の一部として長期的に摂取しやすく、穏やかに体質改善をはかることができると期待されており、実際、抗アレルギー機能を標榜する食品の市場は年々拡大傾向にある。特にわが国ではアレルギーの自覚症状があっても医療機関を受診せず、食品やサプリメントの摂取で症状を抑えたいという社会的要望が根強く、抗アレルギー食品の需要は高いと考えられる。しかし、一般に抗アレルギー機能を有する食品は科学的エビデンスの確保が難しく、効果が疑わしい商品が市場に出る可能性も少なくないと考えられる。今後、成長分野として定着するためには信頼性の確保は重要なテーマであり、効率的かつ堅実な機能性スクリーニング手法の開発が強く望まれている。
 本稿では当研究室において構築した抗アレルギー機能性食品を効果的にスクリーニング可能であるアレルギーモデル動物システムを紹介する。

1.アレルギーの発症機序

 一般的に、アレルギーとは、生体を外敵から防御する免疫システムが、本来は無害な抗原に過剰応答して生じた炎症がもたらす諸症状を指す。つまり、スギ花粉やダニなどのアレルゲン自体は無害であるが、これらのアレルゲンに対する免疫系の過剰応答がアレルギーの原因である。よってアレルゲンを生活環境から除くことによりアレルギーの発症は避けられるが、一度過剰応答を起こした「アレルギー体質」が改善することはほとんどなく、再びアレルゲンと接触すると発症は避けられない。アレルギーは一度罹病すると一生持続する例が少なくない。
 アレルギーに関与する代表的な免疫系細胞にはT細胞、B細胞、抗原提示細胞、マスト細胞などがある(図2)。T細胞とB細胞は通常1種類の抗原にしか応答できず、これを抗原特異性と呼ぶ。抗原提示細胞は、アレルゲンなどの外来タンパク質(抗原)をとりこんで消化分解し、生成した部分ペプチド(抗原決定基、エピトープ)を、その抗原に特異的なT細胞に提示する。
 抗原提示を受けて活性化したT細胞は同じ抗原に特異的なB細胞を、サイトカインなどさまざまなシグナル因子の分泌や細胞同士の直接接触によって活性化し、B細胞に抗原特異的な抗体分子を産生させる。抗原との接触で免疫系が活性化し、その後、免疫記憶が成立することを感作という。
 感作された抗原特異的T細胞の多くは、産生するサイトカインが異なるTh1型T細胞とTh2型T細胞の2種類に分化する。アレルギーに直接関与するのはインターロイキン4(IL-4)を産生するTh2型T細胞であるが、特定のアレルゲンがTh2型分化を強く促す機序は一般化されていない。
 B細胞が産生する抗体のうち、特にアレルギーに強く関与するものが1966年に石坂夫妻が発見したIgEである。IgEは主にTh2型T細胞から産生されるIL-4によって刺激されたB細胞によって産生され、マスト細胞(肥満細胞)の表面に発現しているIgEレセプター(FcRT)に結合することでマスト細胞に抗原への応答性を付与する。実際、アレルギー患者の血液中にはアレルゲン特異的なT細胞とIgEが検出されるケースが多い。特に花粉症などアレルゲンとの接触から1時間以内に症状が現れる即時型アレルギーはIgE依存性であることがほぼ証明されている。
 マスト細胞は皮膚や粘膜などに多く存在し、炎症を誘起するヒスタミンなどのケミカルメディエータを放出(脱顆粒という)して、異物を直接排除する。体内に侵入したアレルゲンがマスト細胞上の抗原特異的IgEに結合すると、IgEレセプターから発せられたシグナルにより、細胞内に蓄積されたケミカルメディエータが放出される。その結果、血流量や血管の透過性が増大し、皮膚の発赤、腫脹、気管支では気道狭窄、鼻では鼻閉、鼻汁の分泌など局所に特徴的な炎症症状が誘起される。急激な血圧低下等を伴う全身性ショックであるアナフィラキシーショックやスギ花粉症は代表的な即時型アレルギー反応である。
 現在では患者血清中のIgE抗体価(特異的IgE抗体の力価)を測定することで原因アレルゲンを推定し、これとの接触を避けることでアレルギー発症予防を図ることが広く行われている。しかし実際はIgE抗体価と症状の重症度は必ずしも相関が高くなく、最終的な診断には実際にアレルゲンと接触させて惹起される症状を見る負荷試験が必要である。

2.食品の抗アレルギー機能の検定

 現在、食品によるアレルギー緩和のターゲットは主にヒスタミン遊離とTh2型免疫応答の制御である。
 一部の茶などに含まれるカテキンの一種であるエピガロカテキンガレートはマスト細胞のヒスタミン遊離を抑制することがin vitro試験などから明らかになっており、実際の飲用でもある程度の効果が確認されている。キノコの子実体などに含まれるβグルカンや一部の乳酸菌などにはTh2抑制能が確認されている。特にある種の乳酸菌の菌体成分にはIgEの抑制能があり1)、経口投与でも血中IgE量が低下する2)、アレルギーハイリスク児への投与により成長後のアレルギー発症率が改善されたという報告3)などがある。
 さらにヌクレオチド4)5)、先述したエピガロカテキンガレート6)、ストリクチニン7)、柿の葉の成分であるアストラガリン8)などさまざまな食品成分にIgE抑制能が報告されており、今後も新しい物質の発見が続くと期待されている。
 一方、食品は薬剤と異なり、一般に効果が穏やかな成分を多種類含むため、摂取効果は複雑と予想される。たとえば、ある成分が機能性を発揮しても、他の成分が逆の作用を示すのであれば、機能性食品としては意義が薄い。さらに、摂取された食品は消化吸収され、解毒排出過程などを経るため、in vitroで観察された機能が生体でそのまま発揮される保証はない。さらにアレルギー疾患は免疫系全体のインバランスによるため、免疫系細胞の一部から株化樹立された培養細胞などで確認された機能性が免疫系全体を改善する保証はない。
 これらから食品成分のin vitro試験から得られた知見のみでは、生体(in vivo)への摂取効果は完全には予測できないと考えられる。食品機能性の最終的な評価は、あくまでヒトへの投与試験によらねばならない。多くの食品は長年の食経験から、日常的な摂取においては安全性がある程度保証されていると考えられるが、過剰摂取や、通常行われない調理法などを用いる場合は予想外の結果をもたらす可能性は否定できない。また一般に、ヒト試験は倫理上の問題の解決や、コントロールされた被験者の確保など、多大なコストを要求する。




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