食品による脂肪細胞の小型化とメタボリックシンドロームの改善/関谷 敬三

はじめに

 脂肪細胞はその細胞内に中性脂肪を蓄積しており、その蓄積量により細胞の大きさが著しく変化する。メタボ検診の腹囲の計測はメタボ判定基準の基本として用いられていることからも、内臓脂肪細胞が大きくなるとメタボになりやすいことを示している。一方、小型の脂肪細胞はメタボを予防・改善する働きのあることが明らかになっている。このような背景からメタボの予防・改善には脂肪細胞の肥大を防ぎ小型化する必要がある。ここでは、脂肪細胞を小型化する作用を食品成分中に見いだした私たちの成績を紹介する。

1.脂肪細胞の役割

 脂肪細胞は皮下や腹部に多く分布している。図1は脂肪組織から脂肪細胞をひとつひとつバラバラにした写真である。小さい細胞から大きな細胞までいろいろなサイズのものがある。小さいものは直径約20マイクロメートル、大きなものは直径100マイクロメートルほどにもなるので体積や重さは100倍以上も変化することになる。このように大きさの変化の激しい脂肪細胞では小さい脂肪細胞と大きい脂肪細胞では性質が全く異なることが最近分かってきた。
 脂肪細胞は生体のエネルギーの貯蔵庫としてまたエネルギーの恒常性維持のために糖・脂質代謝を活発に行っている。また、これらの役割以外に多くの生理活性物質(アディポサイトカイン)を分泌する分泌細胞としても機能している。分泌されるアディポサイトカインはインスリン感受性や炎症などに影響を与えメタボリックシンドローム(メタボ)、生活習慣病、動脈硬化、炎症などの病態に大きな影響を与えている。脂肪細胞、特に内臓脂肪が肥大化するとTNFα(腫瘍壊死因子)、PAI-1(プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター−1)、脂肪酸などが多く分泌され上記症状や疾患の原因になることが知られている。反対に、小さい脂肪細胞からは上記症状や疾患を予防・改善する作用を持つアディポネクチンが多く分泌され善玉の細胞であることが明らかにされている1)(図2)。このようなことから小型の脂肪細胞を持つことが私たちの健康に欠かせない。実際、脂肪細胞分化を促進し小型の脂肪細胞を増やす作用を有するチアゾリジン化合物がインスリン抵抗性を治療する今までにない新しい作用を持つ糖尿病治療薬として開発されている2)。また、高脂血症治療薬のフィブラート化合物も脂肪細胞分化を促進することが示されている3)。食品成分にも脂肪細胞を小型化する作用が見いだせればメタボを予防・改善する食品開発が可能となる。

2.脂肪細胞分化促進

 脂肪細胞を小型化するにはどのようにしたらよいのか脂肪細胞の成り立ちから考えてみた。そこで、図3に示すように脂肪細胞が変化する二つの過程に作用を及ぼす食品成分について検索・評価することにした。すなわち、左からは前駆脂肪細胞が脂肪細胞へと分化して小型の脂肪細胞を作る過程である。一方、右からは拡大した脂肪細胞に蓄えられている脂肪を分解してより小型にする過程である。このような二方向の過程を活性化すれば小さい脂肪細胞が多くなりメタボなどになりにくくなると考えられる。
 私たちは以前、薬用ニンジンに含まれるサポニンが前駆脂肪細胞の分化を促進させ小型の脂肪細胞を作り出しインスリン感受性を向上させることを見いだし、この作用が漢方薬としての薬用ニンジンの薬効発現に関わっている可能性を示した4)。
 その後、食品や農作物にも活性を見いだした。中でもニンジン、パセリなどはエーテルに可溶な疎水性の強い抽出画分に脂肪細胞への分化促進作用が認められ、一方、ダイズ、カンキツ、コンニャクなどはエーテルに不溶な疎水性の比較的弱い画分に作用が認められた。活性を示す物質は農作物により性質が異なる可能性が示された。
 分化促進活性の強かった野菜のニンジンから活性成分を精製単離したところβ−カロテンであった。また、トマトやスイカの赤い色素であるリコペン、ミカンの黄色い色素であるβ−クリプトキサンチンについても検討したところ同様な作用があった。β−カロテンは体内でビタミンAとなり重要な役割を果たしていることはもちろんであるが、カロテノイドには抗酸化、発ガン抑制などの機能性もあることが報告されている。今回、このような既知の作用に加え、細胞の分化を促進し糖・脂質代謝に影響を与える新しい機能性がβ−カロテンなどカロテノイドにあることが分かった。
 次項から個々の食品について詳しく解説する。

 1)ダイズ:大豆抽出物に脂肪細胞分化を促進させる作用のあることを見いだしたので活性成分を精製単離した。その結果、活性成分は数種のイソフラボンであることが分かった。各イソフラボンには抽出物と同じように分化促進作用が認められた。イソフラボンは豆科の植物に多く含まれる成分のひとつであり、基本骨格に各種の修飾が加わることで多くの種類が存在する。大豆には基本骨格の化合物としてゲニステイン、ダイゼイン、グリシテインそして配糖体化合物としてゲニスチン、ダイジン、グリスチンなどのイソフラボンが存在し、さらにアセチル化やマロニル化されているイソフラボンも多い。
 イソフラボンの中でも最も活性の強かったダイゼインで処理した細胞のインスリン感受性グルコース取り込みを検討したところ、ダイゼインは濃度依存的にインスリン感受性のグルコースの取り込みを増加させた。さらに、脂肪細胞分化のマスターレギュレーターとして働き多くの糖脂質代謝に関与する遺伝子の発現を調節している核内受容体のPPAR(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体)γのアゴニストとしてイソフラボンが作用することも分かった。このアゴニストとしての作用はイソフラボンの多くの作用を説明することができる根元的なものであると考えられる。以上の結果より、イソフラボンはPPARγのアゴニストとして働き脂肪細胞分化を促進し糖・脂質代謝の活発な小型の脂肪細胞を作り出す作用のあることが分かった。
 そこで、高脂血症や肥満のモデルである卵巣を摘出したラットを用いてイソフラボンの機能性を検討した5)。卵巣摘出群では体重、血中のトータルコレステロールと中性脂肪、傍子宮脂肪組織重量の検査項目はすべて上昇したがイソフラボンを投与した群では有意に低値を示した。次に、大豆イソフラボンには上記のようにいくつかの種類があり効果に違いのあることが推定されるためイソフラボンアグリコンのなかでも代表的なダイゼインとゲニステインについて同様に卵巣摘出ラットに投与して比較検討した。卵巣摘出群では体重、LDL-コレステロール、血中中性脂肪はすべて有意に上昇したがダイゼイン投与によりすべて有意に低下した。しかし、ゲニステイン投与群においてはLDL-コレステロールのみ有意に低下し、他は低下したが有意ではなかった。このように卵巣摘出ラットに大豆イソフラボンのダイゼイン、ゲニステインを投与すると体重、血中脂質の上昇が抑えられたが、この作用はゲニステインよりダイゼインで強く認められ、イソフラボンの種類により効果の異なることが分かった。この作用の強さは脂肪細胞分化促進に対する活性の強さと同じであった。
 実験動物では有効だったイソフラボンはヒトではどの程度摂ればいいのかが疫学的に調べられている。イソフラボンを1日に40mg以上摂っている人は更年期障害や循環器系疾患、乳がんになる人が少ないと報告されている。納豆で30g、豆腐で80gほどに含まれている量である。イソフラボンは含有量が大豆の約0.2%と微量であり、しかも普段の食事では大豆以外から摂取することが困難である。日本人のイソフラボンの平均摂取量は1日に18r程度と報告されていることから、病気の予防に有効と考えられる40rと比べると半分程しか摂取できていない。大豆は栄養的に優れた価値を持つだけでなく、機能性のあることが明らかにされタンパク質(ペプチド)、オリゴ糖、イソフラボン、植物ステロール、納豆のビタミンKの5成分が厚生労働省の許可を受けた特定保健用食品(トクホ)の有効成分として用いられている。このように大豆の機能性は際だって高いことから、もっと大豆を摂取してもいいのではないだろうか。
 2)カンキツ:疎水性の比較的弱い画分に脂肪細胞分化促進活性が認められたことから有効成分の精製を進めた結果、ヘスペリジンが見いだされた。カンキツ類にはヘスペリジン類とナリンジン類の二種類の特有のフラボノイドが多く含まれていることから、ナリンジンやそれらのアグリコンなども含めて活性の評価を行うことにした。温州ミカンに多く含まれるヘスペリジンや夏ミカンに多く含まれるナリンジンなどの配糖体やそのアグリコンであるヘスペレチン、ナリンゲニンにも活性が認められ、またイソフラボンと同様にPPARγに対するリガンド活性も認められた。これらのフラボノイドは既に血管を丈夫にするなどの機能性が知られているが、今回、脂肪細胞への分化を促進し糖脂質代謝を改善する作用のあることが分かった。また、糖尿病モデルマウスにナリンゲニンを投与すると血糖値の低下など症状の改善が認められ、細胞での試験が疾患モデル動物においても検証できた。
 カンキツからは他にポンカン、シークワシャーなどに比較的多く含まれる成分であるノビレチン、タンゲレチンも脂肪細胞分化を促進させる活性を有していた。




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