アスタキサンチンの機能性―食品用途における可能性―/高橋 二郎
はじめに
日本眼科学会の緑内障に関するシンポジウムで「日本人の緑内障の大半を占める正常眼圧緑内障は、進行が緩やかであるので抗酸化作用を有するアスタキサンチンなどの機能性食品を摂ることも予防・進展抑制に有効ではないか」といった内容がパネラーから提言されていた。第一線の眼科医が多数参席するシンポジウムで機能性食品、特にアスタキサンチンの挙げられる時代になったのかと感慨深いものがあった。アスタキサンチンの健康利用に関する研究が本格的に始まって10年余り、エビデンスが集積してきたことを受け臨床医らも大変注目しているようである。眼科での現状を挙げたが、糖尿病やメタボリックシンドローム改善を求める内科領域、美肌を求める美容領域、筋肉疲労改善だけでなくメンタル疲労改善やスポーツ視機能向上を求めるスポーツ領域でも注目されている。
富士化学工業は、ヘマトコッカス藻を用いたアスタキサンチン製造法を確立し、アンチエイジング効果を中心としたエビデンス集積のための研究を自社または他の研究機関と共同で実施し、主に食品産業向けのバルク製品、一般消費者向け最終製品の販売を行っている。今回、アスタキサンチンに関する基礎、最新のエビデンスおよび富士化学工業のアスタキサンチン事業への取組を紹介することで、食品業界の方々に関心を持っていただき、新たなるアスタキサンチンの利用の一助となればと思う。
1.アスタキサンチン(Astaxanthin)とは
カロテノイドは天然に広く分布する赤、橙、黄色を呈する脂溶性色素であり、現在まで750種の化学構造が同定されている化合物群であり、健康に寄与する効果を有することが次第に明らかとなっている。多くのカロテノイドの中でも、特にアスタキサンチンが注目されている。Kuhn,R.ら(1938)によりロブスターから分離されて以来、エビ、カニ、サケ、イクラなど水産物に広く存在する赤橙色の天然色素であることが知られている。これらの魚類・甲殻類は食経験豊富であることからも、アスタキサンチンは安全な物質であるといえる。近年、アスタキサンチンを高濃度に産生するヘマトコッカス藻(図1)の培養技術が確立され、工業化されている。
1-1 化学構造
アスタキサンチンはカロテノイド類のキサントフィルに属し、ポリエン鎖と両末端にケト基と水酸基で置換されたβイオノン環から成り、13個の共役二重結合を有するのが特徴である(図2)。
2.アスタキサンチンの基礎
2-1 抗酸化作用
生体は、外界からの紫外線などによるストレスで活性酸素の影響を受ける。また、生命活動を営むためのエネルギー代謝でもミトコンドリアなどで多量の活性酸素が発生している。この活性酸素は、抗菌作用などに必要であるが、過剰になると逆に生体にダメージを与える悪玉因子となるため、過剰な活性酸素の除去も健康には重要と考えられている。
(1)生体内酸化カスケード&抗酸化作用機序
図3はアスタキサンチンの生体内における抗酸化作用を示したもので、他の抗酸化素材と比較して非常に優れた一重項酸素消去活性1)および脂質過酸化抑制作用2)を有すると考えられている。
(2)強力な生体膜保護作用
アスタキサンチンとβ-カロテンは双方とも活性酸素を捕捉できるポリエン鎖(長鎖の共役二重結合)を有するが、アスタキサンチンは、両端にあるケト基と水酸基が膜表面のリン脂質の極性部位と親和性がよいため膜を縦貫する形で存在する。そのため膜の表面と内部において効率的な酸化ストレス除去が可能と考えられている3)(図4)。活性酸素が生体膜モデルに与える悪い影響(膜構造破壊度および脂質過酸化度)が、他のカロテノイド(ゼアキサンチン、ルテイン、β-カロテン、リコペン)と比べて格段に抑制されていたという報告もある4)(図5)。
(3)ミトコンドリアへの作用
ミトコンドリアは、すべての細胞内に存在しエネルギー代謝の源であることから、ミトコンドリア機能が低下することは、臓器の機能低下や筋力低下をもたらし、疾病の進展や老化促進につながると考えられている。アスタキサンチンはミトコンドリアに対して、特異的に集積し、活性酸素から保護し5)、さらに脂肪分解律速酵素CPT1の活性を高め、効率よくエネルギー代謝を調節することが報告されている6)。
2-2 抗炎症作用
前炎症プロセスであるNF-κBの活性化を防ぐことにより、引き続き生じるNOやPGE2などの炎症メディエーター、TNF-αやIL-1βなどの炎症系サイトカインの産生が抑制され、炎症プロセスをアスタキサンチンが制御するといわれている7)。ラットLPS誘発ぶどう膜炎においては、眼房水中の浸潤細胞数、タンパク濃度、NO、TNF-α、PGE2などの炎症マーカーに対してアスタキサンチンは陽性対照薬ステロイドと同等の効果を示し、虹彩・毛様体においてNF-κBの抑制効果も示している8)。
2-3 血流改善作用
6mgを10日間摂取したヒトにおいてMC-FAN法で全血流動性の改善が認められている9)。6mgを4週間摂取したヒトにおいてレーザードップラー血流画像測定法による肩周囲10)および網膜11)の血流改善が認められている。
3.アスタキサンチンの健康に対する効果
3-1 眼への作用
(1)疲れ眼改善作用
表1のように4〜12mg(主に6mg)を4週間摂取したVDT使用者や老眼者の自覚症状および他覚的マーカーのピント調節機能が改善されたと報告されている12、13)。
(2)眼の疾患予防作用
マウスの眼にレーザー照射して発生する脈絡膜新生血管が抑制され、加齢黄斑変性症への効果が示唆されている14)。酸化ストレス、乏血、グルタミン酸などの負荷をかけるマウス15)の網膜細胞において、網膜細胞死が抑制されたことから糖尿病性網膜症、緑内障、加齢黄斑変性症など網膜疾患への効果が期待されている。6mgを4週間摂取後のヒト網膜血流改善作用は緑内障への効果を示唆する16)。10〜15年かけて緩やかに進行する正常眼圧緑内障が日本人に主であることから、アスタキサンチンを摂ることも発症や進展の予防に有効ではないかといわれている。UVB照射により培養ヒト水晶体上皮細胞で起きる脂質過酸化などの障害に対する抑制作用は、白内障予防効果を示唆する17)。白内障手術を受けた患者が6mgを2週間摂取したところ房水中SOD活性の上昇がみられたことから、白内障抑制に有益である可能性が示唆されている18)。
3-2 美肌作用
ヒト皮膚線維芽細胞における一重項酸素傷害防御作用が報告されている19)(図6)。また、ヒト(8週間6mg摂取+配合美容液塗布)や細胞を用いた試験により、肌荒れ、シミ、シワなど、さまざまな皮膚トラブルに対して効果があることが報告されている20)。ヒトにおける色素沈着抑制作用、細胞試験でのメラニン生成抑制作用、ヘアレスマウスにおける光加齢抑制、外用または内用でのヒト美肌作用が報告されている21)。
3-3 メタボリックシンドローム改善作用
(1)基礎研究
メタボリックシンドロームモデルラットで、血圧上昇の抑制、インスリン抵抗性改善、アディポネクチン上昇、脂肪細胞肥大化抑制、血中HDLコレステロール上昇、血中の中性脂肪および遊離脂肪酸の低下が認められている22)。高脂肪負荷マウスで、脂肪組織重量および体重の増加抑制、脂肪肝の改善(図7)、肝臓・血中中性脂肪および血中総コレステロールの低下が認められている23)。尿中微量アルブミン減少など糖尿病腎症抑制効果がマウス糖尿病モデルで示されている24)。マクロファージ活性(スカンベンジャーレセプター活性、MMPs活性、炎症誘発性サイトカイン分泌)の抑制が報告されている25)。
(2)臨床研究
動脈硬化の発症・進展抑制を示唆する臨床におけるLDLコレステロールの酸化変性抑制効果が報告されている26)。血中中性脂肪値が高目(120〜200mg/dl)の25〜60歳男女61名をプラセボ、6mg、12mg、18mgの4群に二重盲検的に分け、摂取前と12週間後の血中脂質マーカーを測定したところ、アスタキサンチン各群において中性脂肪低下(図8)およびHDLコレステロール上昇が、12と18mg群ではアディポネクチンの上昇などの脂質代謝改善効果が認められた27)。
3-4 スポーツにおける効果
(1)筋肉疲労改善
遊泳マウス28)または走行マウス6)において活動時間の延長と血中乳酸値上昇抑制が認められた。6mgを4週間摂取した陸上選手が1,200メートル走後29)または12mgを6週間摂取した女性がトレッドミル走行後30)において血中乳酸値上昇が抑制された。動物やヒトにおいて、強い運動後に生じる血中乳酸値上昇がアスタキサンチンを摂る事で抑制されるということは、運動時の筋肉疲労が抑えられ、パフォーマンス向上が期待できる。
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