Lactobacillus acidophilus L-92株による抗アレルギー作用/桑名 るみ子
はじめに
乳酸菌は自然界に広く分布している微生物で、ヨーグルトや漬物などの発酵製品に含まれ、日常的に摂取されている。乳酸菌は発酵を介して、食品の保存性の向上や独特の風味設計に利用されている。また、乳酸菌はヒトの消化管内や膣内において常在細菌叢の一部を形成している。さらに、乳酸菌摂取により有用な効果がもたらされることが確認されており、機能性研究が活発に行われている。特に、整腸作用を有することが広く知られており、「おなかの調子を整える食品」として特定保健用食品の表示許可を得ている商品も多数ある。ほかにも、発がん抑制作用、抗炎症作用、感染症予防、コレステロール低下作用、血圧上昇抑制作用、そして、アレルギー抑制作用などさまざまな効能が報告されている。
一方、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギーに悩まされている人が増加の一途をたどっている。アレルギーとは、特定の異物に対して起こる過剰な免疫反応である。本来、免疫系は自己と非自己を認識し、異物を排除することで、感染やがん細胞の発生から生体を防御する働きを持つ。しかし、免疫反応が過剰に起こると、生体にとって無害であるはずの花粉やハウスダストに対して、くしゃみや鼻水などのアレルギー症状を引き起こす。免疫機能は、ヘルパーT細胞のサブセットであるTh1細胞とTh2細胞のバランスで保たれている。しかしTh1/Th2バランスが乱れると、免疫調節機構の制御に不具合が生じ、アレルギーを発症する。
アレルギー患者の増加の原因として、大気汚染、花粉・ダニなどのアレルゲンの増加、食生活などの生活習慣の変化が挙げられる。さらに、その原因の1つとして、「衛生仮説」が提唱されている1)。公衆・衛生環境が改善され、成長期に微生物に接触する機会が減ることで、免疫系の発達が不十分になるという説である。出生時はTh2優位であるが、成長とともに微生物に接触することでTh1が発達する。しかし、その機会が減少することでTh1の発達が不十分になり、Th1/Th2バランスが乱れると考えられている。また、アレルギー体質の人は、Th2側に傾いていることが分かっている。そこで、Th1を活性化することが報告されている乳酸菌の利用が期待されている。乳酸菌は、感染を引き起こす微生物とは異なり、食経験豊かな、安全性の高いTh1誘導因子となりうる(図1)。
特定の乳酸菌は、ヒトに対してアレルギー症状抑制効果を示すことが報告されている。Kalliomakiらは、アトピー素因を持つ妊婦を対象に出産2〜4週間前、およびその乳児に生後6カ月間にわたってLactobacillus rhamnosus GG株を摂取させることで、アトピー性皮膚炎の発症に与える影響を検討した。その結果、GG株摂取群においてその発症が抑制された2)。その後の追跡調査で、生後4歳の時点でも、GG株摂取群においてアトピー性皮膚炎の発症頻度が低いことが報告されている3)。また、出生後数カ月の乳児においても、アトピー性皮膚炎の症状を抑制する効果が確認されている4)。
本稿では、抗アレルギー作用が臨床的に明らかにされている乳酸菌、L.acidophilus L-92株について紹介する。
1.Lactobacillus acidophilus L-92株
当社では、社員やその家族、動物の腸内から分離された微生物を中心に、菌株の収集、同定、保存を行っている。当社で保有する微生物の中から必要に応じて、食品への適性やさまざまな機能性に関する研究開発を行い、製品への応用を行っている。
L. acidophilus種は、活発に乳酸を産生することから、通常、ヨーグルトなどの発酵食品を作る際に用いられる一般的な乳酸菌である。中でも、L. acidophilus L-92株は食品への適性が高い上、機能性も有しており、整腸作用、血清コレステロール低下作用、アレルギー抑制作用を持つことが確認されている優れた乳酸菌である。
L-92株は、アレルギー抑制効果の強い乳酸菌であることが確認されている5)。当社の持つ微生物ライブラリーから、抗アレルギー作用の強い乳酸菌をスクリーニングするため、食品への適性が高い10種類の乳酸菌を対象として試験を行った。アレルギーモデルマウスに各種乳酸菌を用いた発酵乳を経口投与し、アレルギーの指標である血中のIgE抗体の産生抑制効果を比較した。その結果、L-92株はIgE抗体産生抑制効果が高く、他の乳酸菌と比較して抗アレルギー作用が強いことが確認された(図2)。
L-92株はヒトにおいても、花粉症6、7)、通年性アレルギー性鼻炎8)、アトピー性皮膚炎9、10)の症状を緩和することが確認されている。また、その作用メカニズムにおいても解析を進めており、L-92株はTh1/Th2バランスを改善し、アレルギー症状を緩和しているということが分かってきた。ほかにも、免疫系の恒常性維持に関与する、活性化T細胞のアポトーシスや制御性T細胞への影響も示唆されるデータが確認されている11、12)。L-92株のヒトに対するアレルギー抑制効果、そして作用メカニズムについて、以下に詳細を述べる。
2.L-92株のヒトに対する有効性
■ 花粉症の症状改善効果
カルピス(株)の社内花粉症ボランティア23名を対象に、2002年2月から4月のスギ花粉飛散シーズンにL-92株発酵乳の飲用試験を行った6)。被験者23名全員がスギ花粉特異的IgE抗体陽性であることを確認した上で、12名には100mlの加熱殺菌したL-92株発酵乳を含む飲料を1日2本、11名には同容量の乳酸菌を含まないプラセボ飲料を、6週間連続摂取させた。自覚症状に関するアレルギー日誌を毎日記入させ、日本アレルギー学会の鼻アレルギー診療ガイドラインに従ってスコア化した。
症状スコアは両群とも花粉飛散量の増加とともに悪化していった。鼻symptom-medication score(SMS)の推移パターンで群間有意差は認められなかったが、眼SMSはL-92株を摂取群において有意に抑制された(図3)。さらに、使用した医薬品の使用頻度が減少する傾向、ならびに使用した医薬品の強さが軽いものに変わったと答えた被験者の数が有意に増加していた。
また、2003年のスギ花粉飛散シーズンには、被験者12名に100mlの加熱殺菌したL-92株発酵乳を含む飲料を、10名には同容量のプラセボ飲料を10週間摂取させた。その結果、日常生活支障度スコアにおいて有意な改善が認められた6)。これらのことから、L-92株の摂取が花粉症の症状緩和に有効であることが示された。
■ 花粉曝露施設を用いた花粉症予防効果
和歌山県に存在する花粉曝露施設(EEU-Wakayama)を使用し、L-92株の花粉症予防効果について検討を行った7)。花粉自然飛散下での試験では、被験者間で曝露される花粉量が異なるが、本施設は一定量の花粉に曝露されるため、スギ花粉症に対する有効性をより高い精度で評価することができる。また、本試験は、スギ花粉の自然飛散がほとんどない2005年9月から11月の期間で実施することで、花粉の自然飛散による影響を排除した。均一にスギ花粉が飛散するよう、曝露室内の飛散量を測定機で観察しながら3時間噴霧した。被験者には、曝露室内および後発反応(曝露後5日間)における症状の変化を記録してもらい、評価を行った。花粉症ボランティア84名を対象に試験を行い、初回の花粉曝露による反応性から群分けを行った。L-92菌末配合タブレット(L-92菌末20mg、60mg、180mg含有)とプラセボ群の4群、それぞれ8週間連続摂取させた。摂取8週後に再び花粉曝露を行い、摂取前後の眼や鼻の自覚症状の変化を評価した。その結果、後発反応において、L-92株を20mg、60mg、180mg摂取した群で眼のかゆみ、鼻のかゆみの症状緩和効果が認められた(図4)。また、高用量(180mg)のL-92株摂取によって、血液中のTh2マーカーである、TARCの値の上昇抑制傾向も認められた。
本試験では、花粉が飛散していない時期にL-92株を摂取し、花粉に曝露されたときの症状を抑えた。従って、L-92株を継続的に摂取することで、スギ花粉症における症状の予防効果をもたらすことが期待される。
略
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