アラニンの生理機能と利用/村上 敦也

はじめに

 α−アミノ酸の一種であるアラニンは、食品中や自然界に広く存在している。
 食品添加物としては、旨み調味料として、水産加工品・畜肉製品・漬け物・惣菜・佃煮・合成酒・味噌・醤油など、種々な食品に使用されている。調味目的の他、食品の塩味や酸味を調整したり、苦み・渋み・エグ味・辛み等を緩和したりする等、味のバランスを取る目的でも使用されている。
 アラニンの利用分野・生理機能などを表1に示す。食品分野に限らず、飼料・ペットフード・メッキ薬品・医薬・農薬・洗浄剤・化粧品等、あらゆる産業分野に利用されている。
 さらに最近は、アラニンによる疲労回復、アルコール代謝の促進、肝機能の改善、体脂肪の燃焼促進、肌再生等に関する研究論文・特許文献も数多くなっており、アラニンの生理機能が注目されている。
 (株)武蔵野化学研究所は、1949年の創業以来、アラニンの製造・販売・用途開発までさまざまな面で携わっている。本書の2008年3月15日号では、アラニンの調味料としての特性と利用について紹介させて頂いたが、本稿ではアラニンの生理機能について紹介させて頂く。

1.アラニンの概要

 アラニンは、α位の炭素原子にカルボキシル基とアミノ基を持つα-アミノ酸の一種である。分子内に不斉炭素(C*)を有するため、立体的に鏡像関係にあるL体とD体が存在するが、いずれも、食品中や、動物・植物・微生物など自然界に広く分布している1)。ただし、蛋白質鎖を構成するアラニンや、本稿で述べる生体内での機能(糖新生など)に関与するアラニンはL体である。
 L体とD体の等量混合物であるDL-アラニン(光学不活性)は主に合成法によって製造される。光学活性体(L体またはD体)の製造例としては、DL-アラニンの前駆体であるDL-アラニンアミドに、D体あるいはL体の、いずれか一方のアラニンアミドのみを加水分解する酵素を作用させる方法が知られており、この方法ではD体、Lのいずれも取得可能である2)。
 DL-アラニン、L-アラニンは、いずれも、食品添加物・飼料添加物・化粧品原料として使用が認可されている。なお、DL体、L-体、いずれの場合にも、食品添加物として栄養強化の目的で使用する際には、表示は免除される。

2.血糖値の維持・疲労の早期回復

 アラニンは、糖原性のアミノ酸であり、肝臓での糖新生(グルコース再生)に関与している。この糖新生による効果としては、血糖値の維持・疲労回復・アルコール代謝の促進などである(図1)。
 通常、エネルギーの獲得には、グリコーゲンやグルコース等の糖質が利用されている。しかし、例えば長時間の運動時等には糖質が不足するため、エネルギー不足となる。
 近年、スポーツ飲料等にアラニンを初めとする各種アミノ酸の配合が普及しているが、この理由の一つは、アミノ酸が肝臓でグルコース再生の働きに関与するため、長時間にわたり血糖値が維持されるためである。また、体外からのアミノ酸補給により、運動時の筋肉タンパク質の分解が最小限に抑えられるため、疲労回復も早くなる。図2は、いわゆるグルコース・アラニンサイクルとよばれる。運動時にグルコースが体内で不足すると、筋肉での蛋白質の分解が起こり、グルタミン酸や分岐鎖アミノ酸(BCAA)をはじめとする各種のアミノ酸が生成する。これらアミノ酸のアミノ基は、グルコースの解糖系によって生じたピルビン酸に転移されて(BCAA等のアミノ基はグルタミン酸経由でピルビン酸へ)、アラニンとなる(図3の@)。このアラニンは血液により肝臓に運ばれると、再びピルビン酸に変換され(A)、糖新生によりグルコースを再生する(B)。アラニンは、他の糖新生を行うアミノ酸に比べて、この肝臓におけるグルコース再生速度が最も速いことが知られている。
 なお、筋肉でのピルビン酸からアラニンへの反応と、肝臓でのアラニンからピルビン酸への反応を担うのはアラニンアミノトランスフェラーゼとういう酵素でありALTと呼ばれる。ALTはGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)とも表記されるが、全く同じ酵素である。従来からGPTの呼び名が一般的であったが、最近はALTとの呼び名に変更されつつある。なお、このALT(GTP)は、血液検査での肝機能の指標として利用されているが、この値が高いと肝細胞の変死や壊死などの何らかの疾患の可能性があるとされている。
 また、アラニンは糖新生の他に、グリコーゲンの分解を促進するグルカゴン(ホルモン)の分泌作用にも関わっていることが知られており、糖新生と同様に、糖不足時の血糖値の回復と維持に重要な働きをしている。

3.アルコール代謝の促進

 昔から、アルコールによる二日酔い防止には、肉や魚、シジミ等のタンパク源を摂取すると良いとされている。この理由は、これら食品に含まれる種々のアミノ酸がアルコールの代謝速度を速めるのに間接的に関与しているためである。
 近年、アラニン、グルタミン、オルニチン、グリシン等の抗アルコール性効果に関する文献・特許開示例が多くなっている。例えば、鳥居ら3)は、アルコール投与後のラットの自発運動量(走行距離)・血中アルコール濃度・アセトアルデヒド濃度を調べており、アラニンとグルタミンの等量混合物の投与により、自発運動量の早期回復、および血中アルコール濃度とアセトアルデヒド濃度の早期低下を確認している。
 また、須田ら4)も、エタノール大量投与の動物実験で、アラニンに、その1/10のオルニチンを添加したアミノ酸組成物の投与により、著しい救命効果や意識障害軽減効果を確認している。この理由の一つとしては、図4に示すようにアルコール代謝によって生成した補酵素NADH(還元型)が、アラニンやグルタミンによるグルコースの再生過程(糖新生)で消費される事により、再びアルコール代謝時に必要なNAD(酸化型)に速やかに戻るため、アルコール代謝が停滞せずに促進するためと考えられている。

4.アルコール性肝障害の改善

 アルコール性肝機能の改善については、先の鳥居らは、肝障害を誘起するガラクトサミン塩酸塩を投与したラットの肝機能の回復程度を調べており、アラニンとグルタミンの混合物の投与による肝障害の早期回復を確認している。
 さらに、肝臓を70%切除したラットに、アラニンとグルタミンの等量混合物を経口投与することにより、肝湿重量の回復と肝再生の指標となるS期細胞数の増加を確認しており、アラニンとグルタミンが肝臓の再生にも有効であることを示している。また、田中らの研究でも5)、肝細胞再生の指標となるポリアミン代謝が、アラニンとグルタミンの投与により改善される事を示している。





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