アレルギー食品の検査技術/布藤 聡

1.アレルギー物質を含む食品(アレルギー食品)の表示制度

 近年、ぜん息、食物アレルギーなどのアレルギー疾患は増加の傾向にある。アレルギー疾患とは「過敏症のうち免疫反応が関係するもの」と定義され、食物アレルギーは、その中でも食物の非毒性物質による過敏反応のうち免疫メカニズムを介するものである。わが国では全人口の1〜2%、乳児では約10%が何らかの食物アレルギーを有していると考えられている。原因となる食物は年齢によって傾向が異なる。0歳児では鶏卵、乳製品が主要原因食物で全体の8割を占めている。加齢に伴い、甲殻類、果実類、そば等、原因食物の種類が増えていく。
 食物アレルギーの根本的な治療法は未だ確立されていないため、正確な食品原材料表示による消費者への情報提供が食物アレルギーによる危害を未然に防ぐための重要な手段として位置付けられている。
 わが国では1999年3月の食品衛生調査会表示特別部会の「食品の表示のあり方に関する検討報告書(平成10年度)」において、食品中のアレルギー物質についての表示を義務付ける必要があるとの報告が出され、2000年7月に同部会が報告書「遺伝子組換え食品およびアレルギー物質を含む食品に関する表示について」を公表した。この報告書では、具体的な表示の方法として、実状調査を元に特定の原材料を表示させる「特定原材料等の名称による表示」方式とすること、24品目を特定原材料等とすることが提言された。同年12月の食品衛生調査会常任委員会の審議を経て、最終的に、@重篤度・症例数の多い5品目(卵、乳、小麦、そば、落花生)については省令で規定し特定原材料として法令で表示を義務化、Aアレルギー疾患を引き起こすアレルギー物質を含むことが知られているが症例数が少ないか、多くても重篤な例が少なく、科学的知見が必ずしも十分ではない特定原材料に準ずるもの19品目(あわび、いか、いくら、えび、オレンジ、かに、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン)について通知により表示を奨励、B含有量にかかわらず表示する、という内容の表示制度が決定され、2001年4月1日から施行、1年間の経過措置を経て2002年4月1日から実施された。
 また、本表示制度は、アレルギー患者にとってより有効なものとしてゆくために、適宜見直しが行われており、2004年には新たな疫学調査等の結果を参考として「バナナ」が特定原材料に準ずるものとして追加された。さらに、2008年6月には「えび」および「かに」が特定原材料として表示義務化され、現時点では表示義務がある特定原材料7品目、表示が推奨される特定原材料に準ずるもの18品目となっている。

2.アレルギー食品の検知技術

 アレルギー食品の検知技術は、表示を実施する上で、食品メーカーにおける製品保証や行政における監視において、科学的検証法として非常に重要である。アレルギー患者にとっても、数μg/mlレベルのアレルギー食品の混入が確実に検知可能な技術が広く利用されることにより、表示に基づく食品の選択を安心して行えるようになる。
 現在、アレルギー食品の検知では、@アレルギー食品を免疫学的手法で検知する方法、Aアレルギー食品由来のDNAや遺伝子を検出する方法、の二種類の原理が主に用いられている。以下に各検知技術の特徴を述べる。

2-1 アレルギー食品を免疫学的手法で
   検知する方法
 アレルギー食品に含まれる特定のタンパク質を認識する抗体を用いて検知を行う方法で、比較的高い特異性があり、操作が簡便なキットも数多く市販されている。
2-1-1 酵素抗体法(ELISA;Enzyme-linked Immunosorbent Assay)
 酵素抗体法(以下、ELISA法)は簡便で、かつ数ppmレベルでの高感度検出が可能であることから実用性が高い技術の一つである。
 広く用いられているELISA法はサンドイッチ法とよばれる方法(図1)で、@プレート固相化抗体と検知対象の反応(一次反応)、A酵素標識抗体との反応(二次反応)、B酵素基質による発色反応 の三段階の反応で試験を実施する。キットによっては、検出感度を高めるため、@ プレート固相化抗体と検知対象の反応(一次反応)、A検知対象と反応する二次抗体やビオチン標識二次抗体などとの反応(二次反応)、B酵素標識抗IgG抗体や酵素標識ビオチン-アビジン複合体などとの反応(三次反応)、C酵素基質による発色反応、の四段階の反応を必要とする場合もある。
 ELISA法の試験操作で特に注意すべき点としては、洗浄操作があげられる。洗浄操作を確実に行うことにより、バックグラウンドのノイズを低く抑えることができる。専用のプレートウオッシャーも市販されているので、これを利用しても良い。
 一般に、ELISA法では交差反応や非特異反応が起こりうる。例えば、日本の表示制度において、大麦やライ麦はアレルギー食品表示の対象とはなっていないが、これらは小麦と非常によく似た抗原性を有することが知られており、ELISA法では多くの場合、交差反応性を示す。
2-1-2 ウエスタン・ブロット法
 ELISA法と同様に抗原抗体反応を利用し、より特異性の高い分析を行う手法として、ウエスタン・ブロット法がある。ウエスタン・ブロット法は、タンパク質をSDS-PAGE(Poly Acrylamide Gel Electrophoresis;ポリアクリルアミド電気泳動)などのゲル電気泳動法で分離した後にゲルから電気的にニトロセルロース膜やナイロン膜に転写し、これを抗体と反応させて、ELISAと同様の方法で特異的に抗原を検出する手法である。抗体と非特異的な反応を引き起こすタンパク質は、多くの場合、標的としているタンパク質とは分子量や等電点が異なるため、本方法で判別が可能となる。作業には熟練を要する。





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