高圧処理技術を応用した新製品の開発事例/小林 篤


はじめに

 現在、高圧処理の利用に関する研究の中で、大きく二つに分類される方法により実用化研究が行われている。第一は、圧力が熱と同様に物質の状態変換因子であることを利用して、タンパク質やデンプンなどの物性を改質し、新しい物性の食品を創造するというものである。第二は、高圧処理により誘引される形質転換を利用して食品を加工する方法であり、High-Pressure Induced Transformation(Hi-Pit)と命名されている1)。これは、今後、高圧利用の主流となる分野であり、高圧処理によって誘引される物理的、化学的、生物学的な変化を食品成分の抽出や酵素反応に利用し、食材に含まれている成分を変換することができる。
 今回は、高圧処理を利用した製品開発の事例をいくつか紹介する。はじめに米加工製品への応用として、高圧処理による物性変換を利用した無菌米飯の開発と、Hi-Pit法により、発芽玄米以上にGABAを蓄積させた玄米を紹介する。次に高圧処理による組織破壊という物理的な変化を利用し、その後に抽出処理を行うこと(Hi-Pit)により、アレルゲンタンパク質の抽出効率を飛躍的に向上させた米および小麦の低アレルゲン化製品を紹介する。また、同じくHi-Pit法により、収穫後の農産物への有用成分の増強を行った例として、アボカド中のビタミンCを増強させた結果を紹介する。併せて、抗酸化力の新しい指標であるORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity)に関して、高圧処理によるトマトのORAC値の挙動を調査した例を紹介する。

1.高圧処理を利用した米加工製品の開発

1-1 高圧処理による物性変換を利用した
   無菌米飯
 無菌米飯は炊飯した米飯をそのまま包装しており、常温で半年の保存ができ、電子レンジで2分間、加熱すればいつでも食べることができる。市場規模も年々拡大しており、生産量では冷凍米飯に及ばないものの、食味・保存性・調理の簡便性・価格の面からも消費者から支持されている。
 ここでは、米粒に高圧処理を施し、新しい物性の無菌包装米飯を開発した例を紹介する。浸漬米に高圧処理を施した後に炊飯した米飯(以下、高圧処理米飯と記載)の特性を以下に示す。
@浸漬米の吸水性の向上、複数原材料での
 吸水率の均一化
 玄米、精白米を水中に浸漬し、高圧処理を施すと、図1に示すように細胞壁に破壊が起き、吸水性を向上させることができる2〜4)。また、豆類などを配合した米飯の場合、原料によって吸水率が異なるため、そのまま炊飯すると硬いものがあり、食感に差が生じてしまう。高圧処理により、細胞組織を破壊することで、外皮の硬い小豆などでは短時間に吸水を完了させることが可能である。図2は高圧処理後の大豆、小豆の吸水率の経時変化であるが、無処理に比べて高圧処理を施した場合、吸水性が向上していることが分かる。また、豆類の他にも、麦・きび・有色素米などについて、搗精や脱皮をせずに、高圧処理を利用して吸水性を向上させることで、炊き上がりの食感を均一にすることができる。
A高圧処理米飯の復元率
 高圧処理米飯は高周波(電子レンジ)での復元性に優れており、高周波処理によって炊飯直後よりも糊化度が高くなり、冷めても美味しく、老化した食感が無い5、6)。通常、包装米飯は、再加熱して食するものである。そのため、再加熱した後の特性が重要である。そこで、家庭で利用される電子レンジを用いて、再加熱の前後の糊化度を比較した。図3に示すとおり、浸漬時に高圧処理を施した米飯は無処理と比較し、再加熱の有無に拘わらず、炊飯後のすべての保存日数において糊化度が高かった。また、高圧処理米飯に再加熱を施すと、保存日数が経過した米飯でも、炊飯直後以上の糊化度を示していた。特に保存後15日以降では、糊化度が100%となり、より高い糊化度を示していた。保存日数の経過により、より高い糊化度を示す物性は特筆すべき現象である1)。この高圧処理米飯の特性を活かし、さらに長期間品質を維持させるために包装形態を工夫した非常用・災害用米飯が製品化されている。
B高圧処理米飯の消化性
 玄米米飯は、栄養が豊富である反面、咀嚼に時間がかかり、消化が悪く、高齢者や咀嚼困難者の喫食には嫌われる側面をもっていた。しかし、玄米に高圧処理を施すことでこの課題が解決することができる。図4は、高圧処理を施した玄米米飯、無処理の玄米米飯、無処理の白米米飯の3種類について、各米飯の消化性を新原らの方法7)により、検討した結果である。すなわち、酵素分解により生じた還元糖をソモギー・ネルソン法によりマルトースとして定量し、米飯の乾物量1gから生成される還元糖を求めて比較した。これより、高圧処理を施した玄米米飯は消化が速く、60分後の還元糖が440mg/gとなった。しかし、無処理の玄米米飯は、酵素による還元糖への分解が遅く、60分後で還元糖が330mg/gであった。無処理の白米米飯は、この間の値であった。すなわち、玄米に高圧処理を施した玄米米飯は、一般の白米米飯よりも消化性が向上していたことになる。この特性を活かし、高圧処理米飯は高齢者対応食や病者用食としても活用が期待できる。
C高圧処理による炊飯米の食味改良
 高圧処理米飯は、通常の米飯に比べ、食感は弾力性に富み、煮崩れが少なく、米粒の形のままで相似的に炊き上がり、光沢に優れている8、9)。通常の米飯は、長軸方向に膨張していて表層に亀裂や破裂が見られた。しかし、浸漬米に200MPa、10分間の高圧処理を施して炊飯すると、表層に亀裂や破裂が見られず、穀粒の形状のままで膨張し、光沢に優れていた。図5に示したMRIによる米粒の内部構造を観察した結果では、浸漬米では双方に亀裂が存在し(図5(a)、(b))、明確な違いは見られなかった。しかし、炊飯した米飯では、無処理品に空隙が確認され(図5(c))、高圧処理品にはそれが存在しなかった(図5(d))。また、表1にテンシプレッサーを用いたコシヒカリの炊飯米(対照)、および高圧処理炊飯米の炊飯1時間後と24時間後の硬さ(H1)、粘り(H2)、ならびにバランス度(H2/H1)を示した10)。炊飯1時間後では対照と比較して高圧処理炊飯米はバランス度が高く、粘りがあった。炊飯米の硬さと粘りは時間経過とともに低下するが、高圧処理炊飯米のバランス度の低下は硬さの低下よりも粘りの低下に起因していた。しかしこの粘りは、対照の炊飯米よりも相対的に高いために、24時間後でも老化した米飯に特有な崩壊感がなく、弾力性のある食感が残っていた。これらの結果から、高圧処理を施した米飯は、粘りが高く、美味しさが長時間持続し、冷めても弾力性が残る等の特性が確認された11)。

1-2 高圧処理を利用したGABA富化玄米の開発
 玄米に含まれているGABAは血圧降下作用の他に、脳の新陳代謝促進作用、精神安定作用、腎機能改善作用等に効果がある物質として近年注目されている。浸漬した玄米の細胞壁に高圧処理で損傷を与え、常圧に放置すると、米粒内部のグルタミン酸が脱炭酸酵素(GAD)によってγ-アミノ酪酸(GABA)に変換される。200〜400MPa、10分間の高圧処理を施した玄米を、25℃の常圧の浸漬水中に放置し、その後に蓄積されたGABA含有量を図6に示した12)。ヒトの血圧調整作用に効果があるGABAの摂取量は一日当たり10mg前後といわれており、GABAは病院でも処方されている。市販の発芽玄米が100g当たり10mg程度含まれているのに対し、200MPaの高圧処理を施した玄米は100g当たり18mg以上蓄積されるため、玄米米飯にして一日当たり140g程度を食べれば良いことになる。最近の多様化した食生活の中で、ご飯だけを沢山食べることのできない環境では、高い濃度でGABAが蓄積されている玄米は便利である。





2月28日号をご購読下さい。 


戻る