バイオアベイラビリティに優れたβ
-クリプトキサンチンの機能性食品への応用/向井 克之
はじめに
β-クリプトキサンチン(β-CRX)は、図1に示す構造を有する温州みかんに特異的に多く含まれる黄色い色素で、α-カロテン、β-カロテン、ルテイン、ゼアキサンチン、リコペンとともに、ヒト血液中の主要カロテノイド6種類の一つである。日本では、冬期になると温州みかんを日常的に食すため、冬期のヒト血中β-クリプトキサンチン濃度は、夏期に比べて非常に高いことが知られている1)。一方、諸外国では温州みかんを日常的に食す習慣がないため、血液中や母乳中のβ-クリプトキサンチン濃度が低く2)、β-カロテンやリコペンなどと比べてその生理学的研究は著しく遅れており、他の5種類のカロテノイドが食品素材として既に多く販売されているのに対し、β-クリプトキサンチンだけは販売されていなかった。そこで、われわれは温州みかんを酵素処理により加工した粉末タイプと、エタノール抽出物を加工した乳化タイプという2種類の食品素材について安全で効率的な製造方法を開発し、その供給を開始した。粉末タイプは錠剤などに、乳化タイプはドリンクなどに配合でき、あらゆる食品への添加が可能な食品素材となっている。β-クリプトキサンチンは、プロビタミンA作用、抗酸化作用、発がん抑制作用3)、免疫賦活作用などの生理機能が明らかにされていたが4)、ごく最近になって、糖尿病予防5)、動脈硬化予防6)、肝機能障害予防7)、抗疲労8)、骨粗しょう症予防9)、美容10)などさまざまな機能が確認されている11)。
1.疫学研究から明らかになった
β-クリプトキサンチンの機能性
果実や野菜の中に含まれるフラボノイド類、カロテノイド類、ビタミン類などは、ヒト血液中もしくは尿中で分析することが可能であり、その摂取量と体内濃度には一定の相関が観察される。これらを利用して生活習慣病などをはじめとした生理機能に関するヒトでの疫学研究が、欧米を中心として多く報告されている。カロテノイドの1種であるβ-クリプトキサンチンは、柿、ビワ、とうがらしなどにも含まれるが、その生産量から考えると温州みかんが最大の供給源であると考えられる。β-クリプトキサンチン含量の多い温州みかんなどのカンキツを摂取する機会の多い我が国では摂取量、血清中濃度がともに諸外国よりも高い。温州みかん産地の地域住民を対象にしたSugiuraらの報告1)によると、産地住民の血液中の分析値は著しく高く、欧米での研究における報告に比べて数倍から数十倍の濃度であることが明らかとなっている。さらに、血液中のβ-クリプトキサンチン濃度に影響する因子として、温州みかんの摂取個数以外に、検査時期、年齢、飲酒歴、喫煙歴、肥満度などが影響を及ぼすことが明らかとなった。同じ個数の温州みかんを食べていても、若い人よりも高齢者、男性よりも女性で血液中濃度が高くなる傾向にあり、逆に飲酒・喫煙習慣を有する人や肥満度の高い人では血液中濃度が低くなる傾向があることが明らかとなっている12)。その他、血中β-クリプトキサンチン濃度が高い人では、@飲酒者におけるγ-GTPの上昇リスク7)、A高血糖者における肝機能障害リスク13)、B脈波速度で評価した動脈硬化リスク6)、C非糖尿病者におけるインスリン抵抗性リスク14)、D閉経女性における骨密度低値のリスク15)、E喫煙者におけるメタボリックシンドロームのリスク16)が有意に低くなることなどが明らかとなっている。
飲酒や喫煙によって生じるROS(Reactive Oxygen Species:活性酸素種)は、細胞膜、遺伝子、脂質、タンパク質などに障害を与え、がんなどの疾患を引き起こす。抗酸化物質であるβ-クリプトキサンチンはROS消去のために使われ、飲酒・喫煙者では生体内の濃度が低くなることが容易に想像できる。そこで、Sugiuraら17)は、被験者を喫煙者と非喫煙者に分け、さらにアルコール摂取量から非飲酒群(1日あたりアルコール1g未満)、軽度飲酒群(同1g以上25g未満)、アルコール常用群(同25g以上)の6群に分割して、主要6種類の血清カロテノイド濃度との相関を観察している。その結果、喫煙者でも飲酒をしなければ、6種類すべての血清カロテノイド濃度に有意な変化は観察されなかった。それに対し、非喫煙者であっても1日25g以上のアルコールを摂取すると、ルテイン・ゼアキサンチン以外のカロテノイドは有意に低いことが分かった。ところが、図2に示すように非喫煙者では適量の飲酒(軽度飲酒群)であれば、血清β-クリプトキサンチンに影響はないが、喫煙者では適量の飲酒でもβ-クリプトキサンチンは有意に低くなることが明らかとなった。α-カロテン、β-カロテンについても、同様の結果であり、喫煙と飲酒は、相乗的にこれら3種類のカロテノイドを消費し、ROSの消去に使用されると考えられる。以上のことから、β-クリプトキサンチンを含むこれら3種類のカロテノイドは、喫煙・飲酒によるROSから身体を守る有力なカロテノイドであることが明らかとなった。
2.バイオアベイラビリティに優れた
β-クリプトキサンチン
小腸上皮モデルとして、ヒト結腸がん由来株化細胞Caco-2を用いた試験においては、β-クリプトキサンチン乳化タイプは温州みかんジュースに比較して、5倍以上生体利用効率(バイオアベイラビリティ)に優れることが明らかとなっている18)。そこで、社内ボランティア10名(男女各5名、年齢37.0±8.5歳、BMI21.6±3.1)に協力してもらい、β-クリプトキサンチン乳化タイプ配合ドリンク(β-CRX:0.25mg/本)を1日2本、4週間毎日摂取した。その後、5週間のウォッシュアウト期間を設けて血清β-クリプトキサンチン濃度がドリンク摂取開始前程度まで低下したことを確認して、β-クリプトキサンチン粉末タイプ(酵素処理うんしゅうみかん)含有ソフトカプセル(β-CRX:0.25mg/粒)を1日2粒、4週間毎日摂取してもらい、血清中濃度の比較を実施した。その結果、図3に示す通り血清β-クリプトキサンチン値は乳化タイプ配合ドリンクの摂取により大きく増加し、5週間のウォッシュアウト期間を経て試験前と同レベルまで低下した。その後、粉末タイプ配合ソフトカプセルの摂取により血清値は再び増加した。以下のSugiuraら12)の回帰式を用いて血清β-クリプトキサンチン濃度を本試験と同程度に上昇させるのに必要なみかんの摂取個数を算出し、みかん1個当たりのβ-クリプトキサンチン含有量を1mgと仮定して算出したβ-クリプトキサンチン摂取量と実際のβ-クリプトキサンチン摂取量から、β-クリプトキサンチンを乳化タイプと粉末タイプから摂取した場合の摂取効率を算出した。その結果、粉末タイプ配合ソフトカプセルから摂取したβ-クリプトキサンチンの吸収効率は温州みかんの約36倍高かったが、乳化タイプ配合ドリンクから摂取した場合の吸収効率は約105倍であり、粉末タイプの場合よりもさらに約3倍も高く、非常にバイオアベイラビリティに優れていることが明らかとなった。
(温州みかん摂取個数と血清β-クリプトキサンチン濃度の回帰式)
Y1=-201.023+2.444X1+1.551X2+17.752X3+35.422X4+2.897X5−11.497X6−5.729X7
Y1:血清β-クリプトキサンチン濃度(μg/dl)、X1:温州みかん摂取個数(個/日)、X2:前月の温州みかん摂取個数(個/日)、X3:血液検査月、X4:性別、X5:年齢、X6:喫煙習慣、X7:飲酒習慣
略
7月30日号をご購読下さい。