硬質米と糖尿病発症予防、実用化に向けた取り組み
/大坪 研一/中村 澄子/宇都宮一典/増田 泰伸/辻 啓介
はじめに
国民の健康に対する関心が高まる一方で、食品の機能性成分の過剰摂取等による健康被害が生
じてきており、信頼性の高い機能性評価技術の開発や科学的根拠に基づく有効性・安全性の知見の蓄積等が必要である。筆者らは、農水省の「食品の安全と信頼性確保」研究プロジェクトに参加し、科学的根拠に基づく食品の機能性評価を行うため、生活習慣病予防、特に、糖尿病発症予防のため、ヒト試験による評価等に関する研究を行ってきた。
わが国における糖尿病患者は、平成19年国民健康・栄養調査(厚生労働省)によると、約890万人、予備軍を含めると、約2,210万人と推定されている。本研究では、食味は劣るが、摂食後の血糖上昇が緩やかな高アミロース米を中心に、その食味改善を図るとともに、当該米加工品を用いて、動物飼育試験およびヒトにおける臨床試験を実施し、糖尿病発症予防のための特性評価および短期・長期の臨床試験を行うことを目的としている。科学的根拠に基づく食品の機能性解明に資するため、高アミロース米およびその加工調理食品を対象として、食味の改善および動物・ヒト試験等による生活習慣病、特に、糖尿病発症予防効果を明らかにするために研究を行ってきたのでその研究成果の一部について紹介させていただく。
1.高アミロース米とは
高アミロース米とは、米の主成分であるデンプンのアミロース含量が25%以上と高い米であり、インド型米あるいは日本型米とインド型米の交配によって育成された米の多くがこれに相当する。わが国では軟らかくて粘りの強い米飯が好まれるために、加工用の一部を除いて消費は少ないが、世界的に見れば、中国南部、インド、インドネシア、バングラデシュ、タイなど、米の主産国のほとんどがインド型米を生産しており、硬くて粘りの弱い米飯となる高アミロース米の方が圧倒的に多い。
わが国においては、戦前はタイやビルマなどから輸入されていたが、戦後、米の輸入が禁止されてからは、泡盛やビーフンの一部以外は姿を消していた。
農水省では、米の消費拡大のため、形態や特質の異なる米を開発する研究プロジェクト(スーパーライス・プロジェクト、新形質米プロジェクト)を平成元年に開始し、その中で、低アミロース米、色素米、香り米、タンパク質変異米などと並んで高アミロース米が開発されてきた。品種例としては、「夢十色」、「ホシユタカ」、「ホシニシキ」などが挙げられる。また、わが国がWTOとの関係で米の輸入を開始したことにより、タイなどから高アミロース米が輸入されるようになっている。
2.高アミロース米飯の特徴
前述のように、高アミロース米は、デンプンのアミロース含量が約30%と高く、精米白度が低く、米飯は硬くて粘りが弱く、炊飯食味経で測定した「外観」、「食味」ともコシヒカリに比べてきわめて数値の低い米飯となる(表1)。
また、ラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)によって精米粉の糊化特性を測定した結果からも、食味の指標とされるブレークダウンが小さく、老化性の指標とされるコンシステンシーや表層老化度がきわめて大きいことが示された(表2)。
これらの結果から、高アミロース米は、通常の炊飯では日本人の食味嗜好に適合しないと考えられた。
3.米飯の難消化性の試験
(動物試験および呼気分析)
辻 啓介は、自動呼気分析装置(BGA2000D)を用いて、2種類の米飯(高アミロース米であるホシユタカと比較一般米であるコシヒカリ)それぞれ150gを摂食した後の呼気分析を行った。その結果、図1に示すように、ホシユタカの方がコシヒカリより呼気中水素ガスの量が多く、この数値は小腸までで消化されずに、大腸において腸内微生物によって発酵された量の指標であるため、高アミロース米ホシユタカは、一般米コシヒカリより難消化性であることを示した(図1)。
また、雌ラット各群8頭による2種類の米飯(高アミロース米ホシユタカおよび一般米コシヒカリ)摂食後の血糖上昇を比較した結果を図2に示す。コシヒカリの場合は、炊飯後20分後と2時間後で血糖上昇程度がほとんど変わらないのに対し、ホシユタカの場合は、2時間後の方が血糖上昇抑制が著しく、炊飯20分後の場合は2種類の米飯の相違が比較的小さかったのに比べ、2時間後の場合は、米飯の種類による血糖上昇の相違が大きくなることが明らかになった。
4.米飯の難消化性試験(ヒト試験)
慈恵医大の宇都宮らは、ヘルシンキ宣言の精神に則り、倫理委員会の承認のもと、ヒト試験を行った。対象は、初期は健常者10名、後期は糖尿病予備軍と考えられる10名を対象とした。試験デザインはクロスオーバーデザインとし、ウオッシュアウト期間は1週間以上とした。普通米飯(コシヒカリ)および高アミロース米飯(ホシユタカ)を糖質75g相当量(米飯として約240g)を水とともに供試し、咀嚼回数は1口につき30〜40回とし、約15分間で摂食させた。摂食後のグルコースおよびインスリンの変化を図3に示す。図に示されるように、高アミロース米は、一般米に比べて、有意に血糖上昇(30分後)およびインスリン分泌(60分後、90分後)を抑制することが示された。一方、食後の遊離脂肪酸は、高アミロース米飯の方が有意に少なかった(図4)。
略
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